障害者施設で使える業務システムの補助金は?申請手順も解説

障害者施設の運営において、業務システムの導入は職員の負担軽減やサービスの質向上に欠かせない取り組みとなっています。しかし、いざ導入を検討すると「初期費用が高額で踏み切れない」「複数の事業所に展開するとなると予算が足りない」といった声をよく耳にします。

そこで活用したいのが、国や自治体が用意している補助金制度。返済不要の資金で業務システムを導入できれば、限られた予算のなかでも現場のデジタル化を進められます。

ただし、補助金にはいくつかの種類があり、それぞれ対象となる経費や補助額、申請条件が異なるため、自施設に合った制度を選ぶことが重要です。

この記事では、障害者施設で業務システムを導入する際に使える主な補助金の種類と、それぞれの特徴、申請の手順までをわかりやすく解説します。

この記事で分かること

Q1. 障害者施設で使える業務システムの補助金にはどんな種類がある?
A. 主に4種類です。経済産業省管轄の「デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)」、厚生労働省の「障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業」「障害児支援分野のICT導入モデル事業」、各自治体独自の補助金があります。

Q2. 補助金を使うと自己負担はどのくらいになる?
A. 補助率によって異なります。デジタル化・AI導入補助金(補助率1/2)なら導入総額の約半分、介護テクノロジー導入支援事業や障害児ICT導入モデル事業(補助率3/4)なら約4分の1まで自己負担を抑えることが可能です。

Q3. 補助金活用でよくある失敗は?
A. 最も多いのは交付決定通知の前に契約・発注してしまい、対象外となるケース。他にもGビズID取得など事前準備の遅れ、効果報告の未提出による返還リスク、現場にシステムが定着しないといった失敗パターンがあります。


目次

障害者施設の業務システム導入で使える補助金は大きく3種類

障害者施設が業務システムを導入する際に活用できる補助金は、大きく分けて以下の4つに整理できます。

  • デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)
  • 障害児支援分野のICT導入モデル事業
  • 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業
  • 自治体独自の補助金

それぞれ管轄する省庁や対象となる経費、補助額の規模が異なります。たとえば全国どの事業所でも申請できる国の制度もあれば、特定の自治体でしか使えない制度もあり、目的に応じて使い分けることが大切。以下、それぞれの制度について順番にご紹介します。

デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)

デジタル化・AI導入補助金は、中小企業や小規模事業者が業務効率化のためにITツールを導入する際の費用を補助する、経済産業省管轄の制度です。2026年度から「IT導入補助金」より名称が変更されました。

社会福祉法人も対象に含まれており、常時使用する従業員数が300人以下であれば申請可能。介護記録ソフトや勤怠管理システム、会計ソフトなど、幅広いITツールが補助対象となっています。

補助額は申請する枠によって異なり、通常枠では下限5万円から上限450万円まで、インボイス対応類型では会計ソフトなどに最大350万円の補助が受けられます。補助率は導入するツールや事業者規模によって2分の1から4分の5まで幅があるため、導入したいツールに合わせて最適な枠を選ぶことが重要です。

申請にあたっては、事前に「gBizIDプライム」というオンライン上の事業者用IDの取得や、「SECURITY ACTION」と呼ばれるセキュリティ対策の自己宣言が必要となるため、余裕を持って準備を進めましょう。

具体的な申請条件や活用事例については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【2026年版】福祉施設でもIT導入補助金は活用できる?対象条件・補助額・申請の流れを解説!

参照:デジタル化・AI導入補助金2026

障害児支援分野のICT導入モデル事業

障害児支援分野のICT導入モデル事業は、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの障害児通所支援事業所、障害児入所施設を対象とした補助金制度です。情報端末やソフトウェアの導入を通じて、業務の効率化と職員の負担軽減を進めることを目的としています。

補助額は1事業所あたり上限100万円。補助対象には、タブレット端末やスマートフォンなどのハードウェア、業務支援ソフトウェア、Wi-Fiルーターなどの通信環境機器のほか、クラウドサービス利用料や保守・サポート費、導入研修費、セキュリティ対策費まで幅広く含まれます。

ただし、補助を受けるためには自治体が実施するICT導入研修への参加と、導入後の効果測定・国への報告が条件。実施している自治体や具体的なスケジュールは地域によって異なるため、まずは事業所の所在する自治体に確認することをおすすめします。

参照:千葉県障害児支援分野のICT導入モデル事業

障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業

障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業は、厚生労働省が令和8年度に予算化している補助金制度で、介護ロボットやICT機器の導入経費を補助することで、現場の負担軽減と生産性向上を図る取り組みです。

この制度の特徴は、補助メニューが3つに分かれている点。介護ロボット等の導入支援、ICT導入支援、そして両者をまとめて導入するパッケージ型導入支援があります。

補助額は施設の種類や補助メニューによって異なり、たとえば介護ロボット等導入支援の場合、障害者支援施設で210万円、グループホームで150万円、その他の事業所で120万円が上限。ICT導入支援は施設または事業所あたり100万円、パッケージ型導入支援にいたっては最大1,000万円まで補助されます。

補助率は直接補助事業の場合は10分の10(全額補助)、間接補助事業の場合は4分の3。補助対象として想定されている機器の例には、移乗介護ロボットや見守り・コミュニケーション支援機器、入浴支援機器、機能訓練支援機器などが挙げられます。

なお、利用者の居室を監視する目的のカメラや、設置に工事が必要な機器、補装具に相当する機器は対象外となるため注意しましょう。

参照:厚生労働省「令和7年度障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(民間団体実施分) の公募について

自治体独自の補助金

国の制度に加えて、自治体が独自に実施している補助金制度も数多く存在します。たとえば東京都では「デジタル技術を活用した障害福祉サービス事業所等支援事業補助金」を実施しており、ソフトウェア購入費やタブレット端末の購入費、Wi-Fi環境の整備費、クラウドサービス利用料などを対象に、補助率4分の3、補助基準額133万4,000円から666万7,000円までの補助を受けられます。

また、秋田県、広島市、高知県、大分県などでも、令和8年度の障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援や障害福祉施設等デジタル化支援事業に関する補助金が展開されています。募集状況は自治体ごとに異なり、すでに募集が終了している地域もあれば現在募集中の地域もあるため、こまめに情報をチェックすることが大切です。

自治体独自の補助金は、国の制度よりも申請のハードルが低かったり、地域の実情に合わせた手厚いサポートが受けられたりするケースも。事業所の所在地の自治体ホームページや障害福祉担当課に直接問い合わせると、最新の制度情報を入手できます。

参照:

デジタル技術を活用した障害福祉サービス事業所等支援事業補助金

秋田県障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業について

障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援補助金 – 広島市

令和8年度障害福祉施設等デジタル化支援事業 – 高知県

障がい福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業の公募について

補助金の比較一覧表

ここまで紹介してきた4つの補助金について、特徴を一覧表にまとめました。

補助金名管轄補助対象補助額補助率
デジタル化・AI導入補助金経済産業省ITツール(ソフトウェア、ハードウェア、クラウド利用料など)5万円〜450万円1/2〜4/5
障害児支援分野のICT導入モデル事業厚生労働省情報端末、ソフトウェア、通信環境機器、保守経費など1事業所あたり上限100万円自治体により異なる
障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業厚生労働省介護ロボット、ICT機器、パッケージ導入経費100万円〜1,000万円3/4または10/10
自治体独自の補助金(例:東京都)各自治体ソフトウェア、ハードウェア、Wi-Fi環境、クラウドサービスなど自治体により異なる(東京都は133.4万円〜666.7万円)自治体により異なる(東京都は3/4)

それぞれの補助金は、対象経費や補助規模が大きく異なります。

導入したいシステムや機器の種類、事業所の規模、所在する自治体の状況を踏まえて、最適な制度を選びましょう。複数の補助金を組み合わせて活用できる場合もあるため、迷ったときは自治体の障害福祉担当課や補助金の支援事業者に相談するのがおすすめです。


補助金活用時の自己負担額は?採択には審査がある

補助金を活用すれば導入費用を大きく抑えられますが、すべての費用がまかなえるわけではなく、事業者が負担する自己負担分が必ず発生します。また、補助金の多くは申請すれば必ず受けられるものではなく、審査によって採択・不採択が決まる仕組み。事業計画書の内容や導入するシステムが補助金の目的に沿っているか、しっかり審査されます。

ここでは、業務システムの費用相場と、補助金を活用した場合の自己負担額がどの程度になるのか、規模や補助金別にシミュレーションでご紹介します。

業務システムの導入費用は施設規模で大きく異なる

障害者施設で業務システムを導入する場合、その費用は事業所の規模や職員数によって大きく変わります。一般的な費用相場をまとめると、以下のようになります。

施設規模想定環境初期費用月額費用
小規模1事業所・職員10名程度20〜50万円3〜10万円
中規模複数事業所・職員30名程度50〜150万円10〜30万円
大規模法人本部+複数事業所150〜500万円30万円〜

小規模事業所であれば、業務システムと数台のタブレットを導入する程度で済むケースが多く、初期費用も比較的抑えられます。一方で中規模以上になると、複数拠点での情報共有やデータ連携が必要となり、サーバー環境の整備やライセンス費用がかさむ傾向に。

さらに大規模法人の場合は、法人本部と各事業所をつなぐ統合的なシステム構築が求められるため、カスタマイズ費用や導入研修費なども上乗せされます。費用相場を踏まえたうえで、補助金でどこまで負担を軽減できるのかを次から具体的に見ていきましょう。

【生活介護×IT導入補助金】自己負担は導入総額の約半分が目安

ここでは、生活介護事業所がデジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)の通常枠を活用したケースをシミュレーションします。

項目金額
業務システム初期費用600,000円
クラウド利用料(2年分)360,000円
タブレット5台150,000円
Wi-Fi整備費90,000円
導入総額1,200,000円
補助率1/2
補助金額600,000円
実質自己負担額600,000円

※あくまでシミュレーションです

このケースでは、補助率が2分の1のため、120万円の導入総額に対して60万円が補助金で賄われ、残りの60万円が自己負担となります。クラウド利用料については2年分まで補助対象に含められる点もポイント。

なお、賃金引き上げなどの追加要件を満たせば補助率が3分の2まで引き上がる場合もあるため、より自己負担を抑えたい場合は要件の確認をおすすめします。

参照:デジタル化・AI導入補助金2026

【障害者支援施設×介護テクノロジー導入支援事業】自己負担は導入総額の約1/4まで抑えられる

次に、障害者支援施設が介護テクノロジー導入支援事業のパッケージ型導入支援を活用したケースを見てみましょう。

項目金額
見守り機器2,000,000円
インカム一式500,000円
支援記録ソフト+タブレット1,500,000円
導入総額4,000,000円
補助率3/4(要件充足時)
補助金額3,000,000円
実質自己負担額1,000,000円

※あくまでシミュレーションです

介護テクノロジー導入支援事業は補助率が4分の3と高く、400万円の導入総額に対して300万円もの補助が受けられます。自己負担は100万円ほどに抑えられる計算。

夜勤帯の見守り業務や職員間の連絡に課題を抱える障害者支援施設にとって、見守り機器とインカム、支援記録システムをまとめて導入できるこの補助金は、現場の負担軽減に大きく貢献する制度です。なお、直接補助事業として認められた場合には補助率が10分の10(全額補助)となるケースもあります。

参照:厚生労働省「令和7年度障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(民間団体実施分) の公募について

【放課後等デイ×障害児ICT導入モデル事業】自己負担は導入総額の約1/4まで抑えられる

最後に、放課後等デイサービスが障害児支援分野のICT導入モデル事業を活用したケースをご紹介します。

項目金額
支援記録ソフト+保護者連絡アプリ400,000円
タブレット8台300,000円
Wi-Fi整備費100,000円
保守・設定費200,000円
導入総額1,000,000円
補助率3/4
補助金額750,000円
実質自己負担額250,000円

※あくまでシミュレーションです

障害児支援分野のICT導入モデル事業は1事業所あたり上限100万円の補助が受けられる制度で、このケースでは補助率4分の3を適用。100万円の導入総額に対して75万円が補助され、自己負担は25万円ほどに収まります。

放課後等デイサービスでは、支援記録の電子化と保護者との連絡デジタル化が大きな課題。保護者連絡アプリの導入によって、お知らせ配信や出欠確認、活動報告などをスマートフォンで行えるようになり、職員の事務負担を大幅に減らせます。

ただし、この補助金は自治体ごとに実施状況や補助率が異なるため、申請前に必ず所在地の自治体に確認しましょう。

参照:千葉県障害児支援分野のICT導入モデル事業


補助金別の申請スケジュール・手順

補助金の種類によって、申請の流れや必要な書類、スケジュールは大きく異なります。なかには事前協議が必要なものや、導入後の効果報告まで求められる制度もあるため、事前に全体像を把握しておくことが大切です。

ここでは、主要な3つの補助金について、申請から交付までの手順を順番にご紹介します。

デジタル化・AI導入補助金

デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)は、IT導入支援事業者と協力しながら申請を進めるのが特徴です。事業者が単独で申請することはできず、必ず登録された支援事業者と一緒に手続きを行います。

ステップ内容
GビズIDプライムの取得・SECURITY ACTIONの宣言
IT導入支援事業者の選定・契約
申請マイページから申請書を作成・提出
採択結果の通知(締切後1〜2ヶ月)
交付決定後にITツールを発注・契約
導入完了後に実績報告書を提出
補助金の交付

注意したいのは、交付決定通知が出る前にITツールを発注・契約してしまうと補助対象外となる点。スケジュールを逆算して、契約のタイミングを誤らないようにしましょう。

また、GビズIDプライム(事業者向けのオンライン申請用ID)の取得には2〜3週間程度かかるため、申請の検討段階で早めに準備を始めるのがおすすめです。

障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業

障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業は、都道府県を窓口として申請する制度です。デジタル化・AI導入補助金と異なり、事前協議という段階があるのが特徴。

ステップ内容
都道府県の公募情報を確認(自治体ホームページまたは直接問い合わせ)
事業計画書・見積書などを作成し、事前協議書を都道府県に提出
都道府県が選定・国庫協議
交付決定通知の受領
ICT機器・ロボット等の発注・契約・導入
実績報告書の提出
補助金の交付
導入後3か月程度で効果報告(業務時間削減・職員負担軽減の定量指標)

事前協議の段階で、導入予定の機器が補助対象として適切かどうか、自治体側と擦り合わせができる仕組みになっています。事業計画書には、導入によってどのような業務改善が見込まれるのか、具体的な数値目標を盛り込むと採択されやすい傾向に。

導入後には、業務時間がどれだけ削減されたのか、職員の負担がどう軽減されたのかといった定量的な効果を報告する必要があります。導入前の業務時間や職員アンケートの結果を記録しておくと、後の報告作業がスムーズになるでしょう。

障害児支援分野のICT導入モデル事業

障害児支援分野のICT導入モデル事業も、自治体を窓口として申請を進める制度です。介護テクノロジー導入支援事業と似た流れですが、こちらは導入製品や効果のホームページなどでの公表が求められる場合がある点に注意が必要。

ステップ内容
自治体の公募情報を確認(自治体ホームページまたは直接問い合わせ)
事業計画書・見積書などを作成し、事前協議書を自治体に提出
自治体が選定・国庫協議
交付決定通知の受領
ICT機器・ソフト等の発注・契約・導入
実績報告書の提出
補助金の交付
導入後の効果報告/導入製品・効果のホームページ等での公表(求められる場合あり)

「モデル事業」という名称のとおり、この補助金で導入した取り組みが他の事業所のモデルケースになることを想定した制度設計になっています。そのため、導入の成果を広く公表することが条件として付くケースもあるのです。

公表の負担はあるものの、自施設の取り組みを発信することで地域内での認知度向上にもつながるため、デメリットばかりではありません。実施スケジュールや具体的な要件は自治体によって異なるため、必ず所在地の自治体に直接確認しましょう。


補助金活用時のよくある失敗パターン

補助金は申請して採択されれば終わりではなく、交付までの過程や導入後の運用までを見据えた取り組みが必要です。手続きのタイミングを誤ったり、現場での定着がうまくいかなかったりすると、せっかくの補助金が無駄になってしまうケースも。

ここでは、補助金活用でよく見られる失敗パターンを4つに分けてご紹介します。事前に把握しておくことで、同じ失敗を避けられるはずです。

交付決定前に契約・発注してしまう

補助金活用で最も多い失敗が、交付決定通知を受け取る前にITツールやシステムを契約・発注してしまうケースです。

紹介してきたすべての補助金で「交付決定後の契約・発注」が原則となっており、交付決定通知の受領前に契約・発注した経費は補助対象外となってしまいます。つまり、その経費は全額自己負担となるのです。

「採択結果が届いた」「審査に通った」という連絡を受けた段階でも、まだ正式な交付決定通知が届いていない場合があるため、書類で確実に確認することが大切。とくに導入を急ぎたい現場ほど、交付決定を待たずに動き出してしまいがちなので注意が必要です。

業務システムの提案を受けてから実際に交付決定が下りるまでには数ヶ月かかるケースもあるため、現場には事前に「補助金が下りるまでは導入できない」と説明しておきましょう。

GビズID取得や事前準備を申請直前に始めてしまう

補助金の申請には、事前準備に一定の時間がかかる手続きがいくつかあります。代表的なのがGビズIDプライムアカウントの取得です。

GビズIDプライムは、行政サービスへのオンライン申請に使う事業者向けの共通IDで、デジタル化・AI導入補助金の申請には必須。ところが、このIDは申請してから取得まで2週間程度かかることがあります。書類の不備があればさらに時間が延びてしまうことも。

また、SECURITY ACTIONの自己宣言や、自治体への事前協議書の提出など、補助金ごとに必要な事前手続きもあります。「申請したい補助金が見つかったから、すぐに申請しよう」と思っても、こうした準備が整っていないと締切に間に合わないケースが少なくありません。

補助金の活用を検討し始めた段階で、まずGビズIDの取得など、時間がかかる手続きから着手しておくと安心です。

効果報告の未提出・未達による返還リスク

補助金は受け取って終わりではなく、導入後に「効果報告」の提出が求められます。

たとえば障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業では、導入から3か月程度経過したタイミングで業務時間削減や職員負担軽減の定量指標を報告する必要があり、デジタル化・AI導入補助金でも事業実施効果報告が義務付けられています。

この効果報告を提出しなかったり、報告内容が著しく目標に届かなかったりすると、補助金の返還を求められるリスクが発生。せっかく受け取った補助金を返すことになっては、現場の負担だけが残ってしまいます。

リスクを避けるためには、導入前の業務時間や職員アンケート結果をきちんと記録しておくこと、そして実現可能な目標値を事業計画書に設定することが重要です。あまりに高い目標を設定してしまうと、達成できずに返還を求められる可能性もあるため、現実的な数値を見極めましょう。

導入したシステムが現場に定着しない

補助金を活用してシステムを導入したものの、現場の職員が使いこなせず、結局紙の運用に戻ってしまう、というケースも残念ながら少なくありません。

定着しない原因はさまざまですが、よくあるのは以下のようなパターンです。

  • 導入前に現場の意見を聞かず、管理者だけで決めてしまった
  • 操作研修が不十分で、職員が使い方を理解できていない
  • 既存の業務フローに合わないシステムを選んでしまった
  • ITに不慣れな職員へのサポート体制が整っていない

システムが定着しなければ、業務効率化の効果は出ませんし、効果報告の数値目標も達成できません。導入を成功させるには、補助金申請の段階から現場の職員を巻き込み、実際に使う人の声を反映させたシステム選定が欠かせないでしょう。

また、導入後の研修や、わからないことを気軽に聞ける窓口の設置など、運用面のサポート体制も事前に整えておくことが大切です。補助金の対象経費には導入研修費や保守・サポート費が含まれているケースが多いため、これらを積極的に活用してください。


障害者施設での補助金活用事例

ここからは、実際に補助金を活用してITツールやロボットを導入した障害者施設の事例をご紹介します。どのような課題があり、どのような機器を導入し、どんな成果につながったのか、具体的な数字とともに見ていきましょう。自施設での導入を検討する際の参考になるはずです。

モバイルPC導入で支援記録時間を60%削減した事例

神奈川県の社会福祉法人 翔の会が運営する施設入所支援事業所「水平線」では、神奈川県の「障害福祉分野のICT導入モデル事業」を活用してモバイルPCを導入。支援記録の作成時間を大幅に削減した事例です。

基本情報

項目内容
法人名社会福祉法人 翔の会
事業所名水平線(すいへいせん)
所在地神奈川県
提供サービス施設入所支援
職員数(常勤換算数)50.5名
活用した補助金神奈川県「障害福祉分野のICT導入モデル事業」
ICT機器等導入完了日令和6年12月9日

導入機器

項目内容
機器の種別パソコン(モバイルPC)
製品名dynabook SJ73/LY
台数4台
導入目的作業の迅速化(支援記録の作成など)

導入前後の業務状況の比較

業務内容導入前導入後
支援記録の作成(1件あたり処理時間)20分10分
支援記録の作成(年間業務時間)960時間480時間
通院時の書類作成(年間業務時間)240時間0時間(待ち時間に作業可能)
合計年間業務時間1,200時間480時間
年間業務時間削減率**— **60.0%

導入による具体的な効果

導入前は、PCの台数が少なく古いため処理速度が遅いという課題があり、通院時の待ち時間に事務作業ができないことも問題でした。モバイルPCの導入によって以下のような変化が生まれています。

  • 通院時の待ち時間に書類作成などの事務作業が行えるように
  • PCの処理速度の問題が解消され、事務作業の効率が向上
  • 現場が終わった後の残務処理時間が減少
  • 確保できた時間は、利用者を支援する計画や支援内容の深化(利用者と現場で話す・活動する時間)に活用

支援記録の作成時間が半分になっただけでなく、現場や外出先で記録ができるようになり、利用者の情報を一元管理できる体制が整ったのも大きな成果。年間で720時間もの業務時間削減は、職員の働き方改革にも直結しています。

参照:水平線 障害福祉分野のICT導入モデル事業の実施報告について

マッスルスーツ導入で職員の身体的負担を軽減した事例

神奈川県厚木市のNPO法人ハイテンションが運営する居宅介護事業所「Love jets」では、神奈川県の補助金を活用して移乗介護用のマッスルスーツを導入。職員の身体的負担の軽減と業務時間短縮の両方を実現した事例です。

基本情報

項目内容
法人名NPO法人ハイテンション
事業所名Love jets(ラブ ジェッツ)
所在地神奈川県厚木市
事業所種別居宅介護
職員数(常勤換算数)1.4名
活用した補助金神奈川県「令和5年度(令和4年度からの繰越分)障害福祉分野のロボット等導入支援事業」(施設等に対する導入支援分)

導入機器

項目内容
機器の種別移乗介護
機器名マッスルスーツ Exo-Power Mサイズ 2台/マッスルスーツ Every ソフトフィット SMサイズ 1台

導入前後の業務状況の比較

業務内容導入前導入後
移動・移乗・体位変換(1件あたり処理時間)5分4分
移動・移乗・体位変換(年間業務時間)380人時間304人時間
排泄介助・支援(1件あたり処理時間)15分13分
排泄介助・支援(年間業務時間)210人時間182人時間
合計年間業務時間590人時間486人時間
年間業務時間削減率17.6%

導入により得られた効果

時間短縮の効果以上に注目したいのが、職員の精神的・身体的負担の軽減です。

  • 従事者の精神的・身体的な負担が軽減
  • 安定した姿勢が保持できることで、従事者の腰痛への不安が軽減
  • 利用者へのケアにさらに集中できるようになり、処理時間の短縮にもつながった
  • 利用者の身体的な負担の軽減にもつながった

居宅介護の現場では、移乗や体位変換といった身体介助の負担が職員の離職理由になることも少なくありません。マッスルスーツのような介護ロボットの導入は、職員の健康を守ることで、結果的に人材の定着にも貢献する取り組みといえるでしょう。

参照:令和5年度(令和4年度からの繰越分)障害福祉分野のロボット等導入支援事業(施設等に対する導入支援分)事業報告書

ICT機器導入で業務効率化を実現した事例

富山県の特定非営利活動法人 b-らいふが運営する「b-らいふ・きゃんぱす」では、富山県の「障害福祉分野のICT導入モデル事業」を活用し、ノートパソコンを中心としたICT機器を導入。職員間の業務負担の偏りを解消した事例です。

基本情報

項目内容
法人名特定非営利活動法人 b-らいふ
事業所名b-らいふ・きゃんぱす
所在地富山県
活用した補助金富山県「障害福祉分野のICT導入モデル事業」

導入機器

項目機器台数
ノートパソコン(事業対象)富士通 FMV LIFEBOOK AH50/H1 FMVA50H1SK5台
タブレットPC(事業対象外)TECLAST Tablet PC P30T8台
障害福祉業務支援システム(事業対象外)リクルート knowbe

ICT機器導入前の課題

課題内容
職員数に対してパソコンの台数が少なかった
支援記録等の各種情報や支援ツール等の作成にかかる負荷が一部の職員に集中していた
すべての資料が印刷された様式に手書きであったため、用紙が大量に必要であった

ICT機器導入の推進方法

時期内容
令和6年1月ごろからノートパソコンを順次設置(事業所に2台、出張所2か所に2台と1台)
令和6年4月からクラウド上の障害福祉向け業務支援システムを導入/タブレットPC8台を導入

ICT機器導入後の成果

業務効率化の面では、令和6年4月から業務支援システムを使って利用者の各種情報(利用記録のためのタイムカード、作業時間、支援日誌、業務日誌)の管理を開始。印刷で使用する用紙も大幅に減少しました。

職員の負担軽減の面では、ノートパソコンを各所に最低1台以上、およそ職員2〜3名あたり1台となるよう配置。それぞれの使用時間を分けることで、各職員がパソコンを使える環境を整え、特定の職員に集中していた業務負荷の軽減を実現しています。

このように、機器の台数を確保することと、業務支援システムを連携させることの両面から取り組むことで、組織全体の業務改善につなげた好事例です。

参照:障害福祉分野のICT導入モデル事業における導入事例


障害者施設の業務システム導入は計画的な比較検討から

ここまで、障害者施設で活用できる補助金の種類や申請手順、実際の活用事例についてご紹介してきました。最後に、業務システムの導入を成功させるためのポイントをまとめます。

業務システム導入を成功させる最大のポイントは、補助金の活用ありきで考えるのではなく、まず自施設の課題を整理し、その解決に最適なシステムを選んだうえで、使える補助金を検討するという順番です。「補助金が出るからこのシステムを選ぶ」という発想では、結局現場に定着しないリスクが高くなります。

また、補助金は申請から交付まで数ヶ月かかるうえ、種類によって補助率や対象経費、申請手順が大きく異なります。デジタル化・AI導入補助金、障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業、障害児支援分野のICT導入モデル事業、自治体独自の補助金、それぞれの特徴を比較したうえで、自施設の規模や導入したい機器に合った制度を選びましょう。

導入を成功させるための主なステップを整理すると、以下のようになります。

ステップ内容
現場の課題を洗い出し、解決すべき業務を明確にする
課題解決に必要なシステムや機器を選定する
導入費用と利用できる補助金を比較検討する
GビズID取得など事前準備を早めに進める
交付決定後に契約・発注し、現場への研修を実施する
導入後の効果測定と効果報告を行う

とくに重要なのは、申請の段階から現場の職員を巻き込むこと。実際にシステムを使う職員の声を反映させ、導入後の研修やサポート体制も含めて計画を立てることで、システムの定着率は大きく変わります。

補助金の活用は、限られた予算のなかでも質の高い業務システムを導入できる絶好の機会。一方で、申請手続きや効果報告など事務的な負担も伴うため、自施設だけで進めるのが難しい場合は、IT導入支援事業者や補助金の支援事業者など、専門家のサポートを受けるのも有効な選択肢です。

職員の負担軽減と利用者へのサービス向上を両立させるために、ぜひ計画的に補助金を活用しながら、業務システムの導入を進めていきましょう。

記事監修者

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